私の職場
相 沢 麻希子(平成9年 建築科卒)
 
 例えば、通勤電車片道15分間。この間に何をするか?1,寝る。2,空想。3,読書。4,携帯でメール。5,人間ウォッチング。私は、6対4の割合で、2,空想、3,読書である。

 特に重要な事は考えていない。計画途中のプランの続きだったり、読み途中もしくは終わった本のその後などを勝手に思い描くのである。でも、これは超がつくほどの都合の良い想像である。

 数年前、ある建築家の作品集を開き、あぁキレイな納りだなーとか、キリッとしている建物だなーとか考えていた。同時にどうしても実物を見たくなりホイホイと見に行った。そこで私は、頭の中にあった想像とは全く異なる実物に直面した。そうだ、建築は現実だと、頭をガツンと殴られたような(あぁ、これがよく本で読むような…)衝撃をうけた。

 正直にいうと、切妻という形があれ程美しいと思ったのは初めてだったし、ペラリとした写真からは伝わってこない素材のザラつき、重み、そしてとてつもない緊張感があった。深く長く延びた軒、建物全体をふわりと浮いているかの様に見せていた薄い縁側。しばらく立ちつくして見とれてしまった。
   そこで、またしばし、なぜこんな建物がうまれたのだろうかと勝手な想像が広がったが、哲学者でもあった建築家の思考に私がかすりもするわけないだろうと思い、ひとまず写真を撮り、納りを見てすごした。

 こんな具合で、時間をつくりできるだけ実物を見に行き、自分の中の引出しを増やしている。私の中で勝手に想像が広がり、実物を目にした時はその違いに驚くばかりである。

 実務に関しては、やっと産毛がふわふわとしてきたヒヨコである私に、そっと手を差しのべてくれる先輩方に感謝して、勉強させていただいている。そして、いつか私も手を差しのべる方になると勝手な空想を繰り拡げる。こんな、現実と空想の間を行ったり来たりして業務に励んでいる、今日、この頃である。

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